製造指図と品目コード — 生産方式で変わる登録設計

SAP PP を触り始めて最初に「あれ?」となったのが、同じ「品目コード」でも現場によって登録の粒度が全然違うという点でした。受注生産の現場と、見込生産の現場では、品目マスタと製造指図の紐付け方がまったく別物になります。

この記事では、その違いを「なぜそう設計するのか」という原理から整理します。

目次

前提1:製造指図(Production Order)とは何か

まず土台を揃えます。製造指図とは、「何を・いくつ・いつまでに・どの手順で作るか」を指示する実行単位です。SAP では指図番号(Order Number)という一意の ID が振られ、この番号を軸に、部品の出庫(GI)・工数の実績(Confirmation)・完成品の入庫(GR)がすべて紐付きます。

ここで重要なのは、指図番号は「原価の受け皿」でもあるということ。投入した材料費・労務費・経費は一旦すべて指図に集まり、完成入庫のタイミングで製品原価として振り替えられます。つまり指図の切り方=原価を捕捉する単位、ということになります。

前提2:MTO と MTS とは何か

生産方式の話に入る前に、SAP で頻出する2つの用語を押さえておきます。

MTS(Make-to-Stock / 見込生産) は、需要予測に基づいて先に製品を作っておき、注文が入ったら在庫から出荷する方式です。消費財・医薬品・日用品のような、回転が速く標準品として量産される製品が典型例です。SAP の品目マスタ(MRP3 ビュー)では、戦略グループ(Strategy Group)に 10 を設定するのが基本形になります。

MTO(Make-to-Order / 受注生産) は、顧客から注文が入って初めて生産を開始する方式です。特注機械・自動車のカスタム仕様・航空機部品などが該当します。品目マスタの戦略グループには 20 を設定します。

ここまでだと「いつ作るか」の違いに見えますが、実はそれだけではありません。MTO と MTS を本質的に分けているのは「在庫が受注ごとに分離されているかどうか」です。たとえ注文を受けてから作っていても、できた在庫が受注と紐付かず共通在庫に混ざるなら、それは SAP 的には MTS です。逆に MTO では、完成した製品は「受注在庫(Sales Order Stock)」という特殊在庫として、販売伝票番号 + 明細 + 品目 のキーで他の在庫から隔離されます。

この「在庫と原価を分離するかどうか」という視点が、このあとの品目コード設計の話に直結します。

パターン1: 受注生産(MTO)— 品目と指図が1対1

MTO では、品目コードと製造指図がほぼ 1対1 の関係になります。より正確に言うと、「受注(販売伝票)→ 製造指図 → 製品」が一本の線でつながります。

なぜ1対1なのか

理由はシンプルで、一つひとつの製品が「別物」だからです。A社向けの特注機とB社向けの特注機は、たとえ似ていても仕様が違い、原価も違い、納期も違う。これを同じ在庫プールで扱ってしまうと、「どの受注にいくらかかったのか」が混ざってわからなくなります。

だから MTO では、受注ごとに指図を立て、その指図番号に紐付けて原価を個別に集計します。先ほど触れた受注在庫の仕組みにより、完成品は受注単位で物理的にも会計的にも分離されたまま管理されます。

ポイントは、品目マスタ自体は一つでも、実体(在庫・原価)は受注単位で別々に持つという考え方です。品目コードは「設計図の名前」であって、「モノの実体」は受注ごとに独立している、とイメージすると掴みやすいと思います。

パターン2: 見込生産(MTS)で工程ごとに品目を切る

MTS の中で面白いのが、工程の途中段階にもあえて品目コードを振る という設計をよくするという点です。これは最初わかりにくかったのですが、理解すると非常に合理的な仕組みです。

SAP ではこの「中間工程のモノ」を表現するために、品目タイプ HALB(Halbfabrikate / 半製品) という専用の区分が用意されています。原材料(ROH)でも完成品(FERT)でもない、「加工途中の在庫」を明示的に持つための枠組みです。

なぜ中間工程に品目コードを振るのか

たとえば「鋼材 → 切断 → 曲げ → 溶接 → 塗装 → 完成品」という工程があったとします。素朴に考えると、一番最初の原材料(ROH)と一番最後の完成品(FERT)にだけ品目コードがあれば十分に思えます。

でも実務では、「曲げ後」「溶接後」の状態にも HALB として品目コードを振ることがよくあります。そうすると何が起きるか。

  1. 工程間の在庫が見える化される — 「溶接済み・塗装前」が今いくつあるのかが SAP 上でわかる
  2. 工程ごとに原価が把握できる — どの工程でコストがかさんでいるかが分析できる
  3. 工程の一部だけを外注に出せる — 「塗装だけ外注」みたいな設計がしやすい(HALB は社外調達と社内製造の両方の情報を持てる)
  4. 中間品を別製品に流用できる — 同じ「曲げ済み部品」を複数の完成品で共有できる

つまり、品目コードを切る=そこに在庫と原価の境界線を引く、ということです。境界線をどこに引くかは、「どこを管理したいか」で決まります。

製造指図との関係

この設計では、工程ごとに品目が分かれているので、製造指図も工程ごとに立てることになります。「鋼材→曲げ済み部品」を作る指図、「曲げ済み部品→溶接済み部品」を作る指図、というように、指図がリレーのバトンのようにつながっていきます。

MTO の「1受注=1指図」のシンプルな構造とは違い、1つの完成品を作るのに複数の指図がぶら下がる構造になります。その代わり、各段階の在庫と原価がすべて可視化される、というトレードオフです。

原理で整理する:品目コードとは「管理したい単位」

ここまでの話を一段抽象化すると、こうなります。

品目コードを振るということは、「ここに在庫と原価の境界線を引きたい」という意思表示である。

  • MTO は、受注単位で境界線を引きたい。だから品目は一つでも、受注在庫という仕組みで受注ごとに区切る
  • MTS(工程分割型)は、工程単位で境界線を引きたい。だから中間工程にも HALB として品目コードを振って区切る

どちらも「何を見えるようにしたいか」という管理要件から逆算された設計であって、どちらが正解というものではありません。MTO で中間品に品目を振りすぎるとマスタが爆発しますし、MTS で境界線が粗すぎると工程ボトルネックが見えなくなります。

なお、MTS と MTO の中間には「引当生産(Assemble-to-Order)」のような混合戦略もあり、SAP では戦略グループ 40(最終組立ありの計画)、52(最終組立なしの計画)、50(MTO 計画、最終組立なし)など、かなり細かくバリエーションが用意されています。実際の現場では「純粋な MTO」「純粋な MTS」というよりも、この連続体のどこに位置するかを意識して戦略グループを選ぶことになります。

現場でのチェックポイント

新しい現場に入ったときに、自分がよく確認するのはこの3つです。

  1. その品目は MTO か MTS か — 品目マスタ(MM03)の MRP3 ビューで戦略グループを見る。10 系なら MTS、20/50 系なら MTO が基本
  2. 中間品に品目コードが振られているか — BOM(CS03)を展開したときに、HALB がどれだけ出てくるか
  3. 指図と品目の対応関係 — 1受注に対して指図がいくつ立つのか、工程ごとに分かれているのか(COOIS で指図一覧を見ると流れがつかめる)

この3つを見るだけで、「この現場はどういう思想で生産管理を設計しているか」がかなり読めます。

おわりに

SAP PP の難しさは、トランザクションコードを覚えることではなく、「なぜこの設計になっているのか」を現場の生産方式から逆算して理解することにあると感じています。製造指図と品目コードの関係はその入り口で、ここを押さえておくと BOM・作業手順(Routing)・MRP・原価計算まで一本の線でつながって見えてきます。

次回は、この話をさらに掘り下げて「受注在庫と個別原価(CO-PC)」の話か、「工程分割とバックフラッシュ」の話を書こうと思います。


参考文献・リンク

本記事の内容は、以下の SAP 公式ドキュメント・SAP コミュニティ・専門ブログを参照して執筆しています。

SAP 公式(一次情報)

SAP コミュニティ・SAP-PRESS(専門家による二次情報)

品目タイプ HALB 関連

ERP 実務チュートリアル

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